私がWさんのことを知ったのは2016年の春のことでした。
当時、私はその年の頭にアカウント登録したばかりのFilmarksという映画レビューサイトを頻繁に覗いており、その中で自分自身でも⭐︎5.0の満点スコアをつけた『劇場版アイカツ!』の、他のユーザーが書いているレビューを過去にまで遡ってすべて読み漁ることをしていました。
『劇場版アイカツ!』は、アイドルからアイドルへと、その夢のバトンが美しく繋がれていく様(それはTVシリーズからこの作品が一貫して大切にしてきた大きなテーマです)を90分という時間の中で見事に描いてみせた夢のように素晴らしい作品です。その傑作への賛辞をいったいどれだけの人がどのような言葉で語っているのかが気になったためです。
"すべて読み漁る"とは言っても別にそれは大したことではありませんでした。当時のFilmarksは今より人口が遥かに少なかったこともあり、『劇場版アイカツ!』についているレビュー数なんてその時点では多くて100にも満たないくらいだったと記憶しています。
"本当はもっと多くの人に届いて然るべき作品だというのにFilmarksユーザーときたら『ショーシャンクの空に』とか『フォレスト・ガンプ』みたいないわゆる名作にばかり気を取られおってからに……"と変なことを考えながらも数少ないユーザー達の残した『劇場版アイカツ!』レビューを読んでいくうち、ある一つのレビューに出会いました。それは私の内からは決して出てこないような優しく鮮やかな言葉で、この『劇場版アイカツ!』の良かった点を挙げ、そしてそこから独自の批評を展開している良文でした。最初の投稿まで遡ってもこんなに良い映画の感想はこれしかありませんでした。
そして、それこそがWさんの書いたレビューだったのです。
とりあえずすぐにフォローをしました。Wさんのフォローを決めたポイントはそのレビューだけでなく、当時映画館で掛かっていた話題作や、私の見たことのないセンスの良さそうな映画を多くチェックされていたこと、そして私自身ともかなり近い評価の基準を持っていることが他の映画につけているレビューからも見えたことでした。
そしてフォローが返ってきました。とても嬉しかった。しかし、FilmarksはTwitterのような他のSNSとは違って、投稿できるのは映画の感想文のみ(そこがこのサイトの良いところなのですが)。日常的なつぶやきはもちろん皆無で、誰かのレビューにコメントを付けることはできますが、そこからの会話の拡がりは非常に稀薄です。映画の感想からしかそのユーザーがどのような人であるかを判別することができない、とてもユーザー間のコミュニケーションに向いているとは言えない仕様でした。Filmarksで行なわれたオフ会とか今までに存在するのでしょうか。知りません。おそらく存在しないでしょう。
元よりコミュニケーションを取りたくてフォローをしたわけでもないですから、それは別によかったのです。この人は次にどんな言葉でどんな映画の感想を語るのかをそばで確認することができる、それこそがフォローした唯一にして最大の目的です。映画のレビューから垣間見えてくる音楽の趣味等も私と少し近いものが感じられて、同じようなものを嗜好する人なのだな、だったらアレとかもきっと好きなのだろうなと、レビューに書かれていることからその人となりを類推するような期間をしばらく過ごします。そして1ヶ月と少しが経ったところで驚くべきことが起きました。
私は、Filmarksはこの年の頭に始めたばかりでしたが、Twitterに関しては2010年ごろからタイムラインを毎日毎時間チェックを欠かさないほどのヘビーユーザーでした。そのTwitterで当時フォローしていた音楽評論家の宇野維正氏(今はブロックされてしまいツイートを読むことは叶わなくなりました)がリツイートしたいくつかの小沢健二「魔法的 Gターr ベasス Dラms キーeyズ」コンサートの感想ツイートの中に、Filmarksと同じアイコン、同じスクリーンネームのWさんのツイートがあったのです。間違いなく同一人物が運用しているTwitterアカウントでした。私は急いでフォローをしました。この機会を逃せばもう次はないかもしれないと思えたからです。
そしてフォローが返ってきました。とても嬉しかった。私は次に急いでDMで、Filmarksでもフォローをしている○○という者です、リツイートで見掛けてTwitterをフォローさせていただきました、と興奮を抑えつつ伝えました。すると5分も経たないうちに返事がありました。それはとても嬉しい返事でした(なにが書かれていたかはナイショなのさ)。そしてこれが私たちの交わした最初の会話だったのです。
かくして、私たちはTwitterでもフォロー/フォロワーの関係になりました。2016年5月27日のことです。
TwitterをフォローしてからWさんとはリプライで頻繁にやり取りをするようになり、映画レビューを窓にせずとも様々な意見を交換できるようになりました。リプライを送るのも返すのも苦手な私にとって、インターネットでここまで仲良くしてくれた人はとても珍しかったです。少し変わった出会い方をしたというアドヴァンテージがあったのかもしれません。そしてそうやって会話を重ねていく中で見えてくるWさんの人格や考え方は私にとってたいへんな勉強になりました。インターネットでこういうことを言ってはいけない、こういう言葉を使ったらカッコ悪いという規範のようなものが、直接そんな会話をしたわけではなくても、Wさんのツイートを読んでいるとなんだか自然と身についていくようでした。私もWさんのように少しでも善き人であろう、と思えました。そして同時に、映画だけでなく漫画や音楽に対してのアンテナをいつも張り巡らせていることがわかるツイートの数々に深く感銘を受けました。Wさんのツイートのおかげで出会うことのできた作品はとても数えきれません。
Wさんと初めて顔を合わせることができたのは2020年2月のコミティア会場で、私が友人のスペースのお手伝いをしていたときでした。
友人のスペースへ来てくれたWさんとはそのとき2,3の言葉を交わしたのみでした。あまりに突然のことでなんの心構えもできておらず、生来の人見知りも発揮してしまった私は特に気の利いたことは一つも話せませんでしたが、それでもWさんは私と私の友人に差し入れですと言って見たことのないコーラ味のグミをくれました。なんと礼儀正しく格好いい方なんだろうと感心してしまいました。
そこからは、お互いに通っていた同人誌即売会で少しお話しをしたり、Wさんが自身でサークル参加された『アイカツ!』の即売会「芸能人はカードが命!」のスペースに少しお邪魔したり(Wさんはとても可愛らしい大空あかりちゃんたちの絵を描きます)、イベント事があるとたまにお会いするようなことが続きました。直接話すことは叶わなかったですが、池袋の新文芸坐が濱口竜介監督の『親密さ』を上映したとき、同じ回で見ていたというニアミスなんかもありました。
そのような形で、これからもTwitterでリプライを交わしたり、たまに即売会等のイベント会場で直接の挨拶をしたり、緩く関わりを持ち続けていくのだろうと思っていました。しかし、今年の2月にWさんから届いたDMで私たちの関係はさらに深まることとなります。
休日の朝、Wさんから届いたそのDMには「もしDiscordのアカウントを持っていたら私のサーバーに入らないか」というお誘いの旨が書かれていました。Wさんが夜になると他のTwitterユーザーの方々と何かしらのお話をDiscordでされているというのは、Wさんや、Wさんと仲良くされている方々のツイートからなんとなく知ってはいたのですが、それは自分とはまったく関わりのないことだと思っていました。先ほども書いている通り、人見知り気質のある自分にはあまり向かないコミュニケーションの取り方だという自覚があったし、そこに入りたくても誰にどのように頼めば入れるのかも分かりませんでした。それに、そこに自分が入ることで本来のそのコミュニティの形が損なわれやしないかという不安がありました。
しかし幸いにも、私には毎週友人と休日の深夜にアニメを一緒に視聴するときに使用しているDiscordのアカウントがありました。せっかく誘っていただいたのだからと、思いきって私はそのアカウントでWさんのサーバーに加入することを決めたのです。
そしてここからが本当に早かった。
今までは文字ベースの会話がほとんどだったのが、ボイスチャットで直接の言葉を取り交わすことで、私はすぐにWさんと今まで以上に打ち解けることができました。それに、Wさんが普段から仲良くされている方々も本当に優しい人たちばかりで、新参者で話の内容もつまらない私のことを嫌がる素振りを見せずに会話をしてくれました。
夜にDiscordのボイスチャットが開いていたら、なるべく参加して皆さんと会話をしました。それが考え得る一番楽しい夜の過ごし方になったからです。
Discordでは誰かがゲームを配信するのを見たり、映画の感想会が行なわれたりしていて、非常に楽しく刺激的な時間を過ごすことができました。そしてそれは今日でも不定期に続いています。
最近ではWさんが主催をしてくれて、東京近郊に住んでいるユーザーを中心にオフ会が開かれたこともありました。自分にもこういう風にインターネットで知り合った人たちと実際に会って楽しんだりする日々が訪れるなんてととても嬉しく思いました。今でも自分事だとは少し信じられないくらいです。
最初にFilmarksをフォローしたときからいつの間にかもう8年の月日が経っていました。Wさんのおかげで私は知らなかった映画や漫画のことをたくさん知ることができたし、さらにとても魅力的な人たちとも新たに知り合うことができました。
いつかWさんがTwitterでのリプライで、私と知り合えたことはインターネット人生で最良のことの一つだと言ってくれたことがありました。私は今でもその言葉をお守りのように大切にしているのですが、言わせてもらうのなら、それは完全にこちらのセリフです。
Wさんには伝えきれないほどの感謝があります。『ルックバック』の京本が藤野に言った"部屋から出してくれてありがとう"にも似た気持ちを私はWさんに抱いています。
また一緒に映画を見に行きましょう。アナログゲームで遊びましょう。そのどれも私にとってはかけがえのない大切な思い出です。
悪意によって駆動するものがほとんどのこのインターネットの片隅で、Wさんと知り合えて本当によかった。出会えていなければきっと私は今よりもずっと退屈な日々を過ごしていたのだと思います。
結局、私はこの変なエントリーの中で何を言いたかったのか。それは映画の感想文とかはいっぱい書いたり読んだりしたほうがよいということかもしれません。違いますが。終わり。
P.S. Wさんが前に紹介してくれた新宿の「切麦や 甚六」といううどん屋さん。これは食べたいと思っています。