サイコキラー通信 Vol.1 5月のあれこれ

 2022年5月はたくさんの作品に触れることができました。少しずつ感想を書き残してみます。

 

1.ゴールデンカムイ (5月8日)


 無料公開期間が5月8日まで延長されたことで、それなら読んでみようかという気になりました。ヤングジャンプの連載作品を読むこと自体とても久しぶりだったように思います。

 ゴールデンウィーク中、人と会っていない時間は家の中でも外でもずっとこればかりを読み進めていました。もともと予備知識は、舞台が北海道でアイヌ民族の女の子が出てくるということだけで、刺青人皮を集めて金塊を探す物語だなんていうのはまったく知りませんでしたから、第一話を読んだときはそのストーリーにたいへん驚きました。

 ずっとおもしろく読み進めることができましたが、特に列車の中で巻き起こる最後の決闘、あの列車の車両に脈絡などまるでなくヒグマが一頭乗り込んできた場面には心が震えるほど感動しました(ヒグマは物語の序盤、主人公・杉元たちの前に立ちふさがる天敵たる生物です)。この場面を目の当たりにしたとき、心の底からこの作品のことを好きになったのだと思います。

 ところで、昨年公開の映画『花束みたいな恋をした』の主人公である麦くんがこの『ゴールデンカムイ』を『宝石の国』なんかと同様に愛読している設定がありました。あの映画を見たとき、『ゴールデンカムイ』を一切読んだことのなかった私は「この男が『宝石の国』を愛好することには納得がいく。しかしなぜ『ゴールデンカムイ』も読んでいるんだ。こんなのはこの男が最も嫌うメジャータイトルだろ。俺はこんなの読む気にならない」などと愚かな感想を抱いたことを強く記憶しています。今となって思うのは、おもしろいものならなんでもかんでも触れておいたほうがいいということです。作品はポジショニングの道具じゃないですから。反省。

 

2.なめらかな世界と、その敵 (5月12日)



 文庫化されたので久しぶりに読み直しました。個人的にとても大切な一冊です。今回読んでおもしろかったのは、ハードカバー版が発売したのは2019年であるにも関わらず、この文庫版の文章の中には「コロナ」や「リモート会議」といった単語が自然な流れで出てきたことです。一応、ハードカバー版の該当箇所と照らし合わせて読んでみましたがやはり新たに改定されているようです。小説も生き物のように変化するのだなと思いました。

 この作品集の中で一番のお気に入りは「ひかりより速く、ゆるやかに」。一番最後に収録されている作品です。初読時、この作品を読んで大きな元気をもらったことを、今回読み直していて思い出しました。爽やかで非常に気持ちのいい読後感があります。

 文庫版あとがきでは、「シンギュラリティ・ソヴィエト」を文庫版に収めるかどうか最後まで迷ったという記述があったのが印象に残りました。もちろん、この度のロシアによるウクライナ侵攻を受けてのことです。この作者の、社会情勢や時事を受けてのステートメントを見るたびに、この人はとても真摯にものを考え、小説家として自分にできることを常に模索しているような人だなとつくづく感心します。アンソロジーの編纂もいいのですが、伴名練の書く新作を早く読んでみたいです。

 

3.シン・ウルトラマン (5月14日)

 

 はっきり言ってストーリーはほとんどダメだと思いました。「そんなに人間が好きになったのか、ウルトラマン」その通りです。それに『シン・ゴジラ』とは違って、狡猾な旧体制が打倒されたわけではないこの世界では問題の根本が何ら解決されたわけではないであろうことがすこぶる後味悪い。ラストシーンのぶつ切りっぽい編集もリズム感が損なわれていて気持ちよくはありませんでした。

 ただ、大喜利のように、次はここにこの角度でカメラを置いてみようという変なアングルの乱れ撃ちは正直だいぶおもしろかった。実相寺昭雄のアングルということなのでしょうが、誇張の度合いがはっきり強く、どちらかというと、同じものを目指して作られているであろう『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』の第三村パートを強く想起させました。次はどこにカメラを置くのかなという興味の持続で、集中して最後まで見ることができました。

 それと西島秀俊は本当にいいですね。『クリーピー 偽りの隣人』という映画を見てからすごく好きになった役者ですが、それ以降どんな役柄を演じているのを見ても、ただただいいなと思うのみです。

 

4.オールド・ボーイ (5月22日)

 

 パク・チャヌクによる2003年の映画です。4K上映をしていたのでこれを機に初めて鑑賞しました。パク・チャヌクは『お嬢さん』という映画が、もう何回も見てしまうほど大好きなのですが、過去の作品はまったく見られていませんでした。そしてこれも『お嬢さん』同様、とにかくおもしろかった。

 直截的なグロやエロの描写はかなり少なかったはずですが、それでもこの映画がR18+扱いとなるのはこの物語が孕む倫理的な問題からでしょうか。ある禁忌を描いた作品です。

 好きだったのは終盤の場面、復讐を誓った憎き相手に主人公のオ・デスがもはや仕方なく見せたあの振る舞い。途方もないくらい最悪で、泣きながら笑ってしまうような胸糞の悪いとてもいいシーンでした。

 

5.五等分の花嫁 (5月28日-5月29日)

 

 5月28日に2シーズン全24話のTVアニメをすべて見てから(見終えた頃には翌朝の4時を回っていました)、5月29日に映画を見に行きました。

 実は1stシーズンは本放送時に一度見ていたのですが、これが全然おもしろくなくて2ndシーズンはまったく見られていなかったような状況です。

 で、久しぶりに一から見返してみると、これがやっぱり全然おもしろくない。何が伝えたいのか、どういう方向に持って行きたいのかが曖昧ではっきりとしないノリの脚本、演出。物語も大枠や前提は別にいいですが、細部がいつもどうにもパッとしないようなロジックで押し切っているような雑な印象があります。だいたい、五つ子の中で入れ替わりやら成りすましやらの行為が横行しているのですが、野暮なこととは自覚しつつもそんなことできるわけあるかいと突っ込みたくもなります。

 ですが実際に二日間、主人公と同様にこの五つ子たちに振り回されてみたところ、これが案外楽しかったのです。おもしろくはないけど楽しかった。個人的にこんなのはあまり前例のないような経験で、映画を見終えた後には若干の寂寥感すらありました。思うに、二日間詰め込んでこればかりを見続けたことである種のお祭りのような気分にさせられたのです。やいのやいの言いながら見ている時間はそれはそれで本当に尊い時間でした。

 これを書いている現在、原作漫画も4巻まで読み進めました。アニメでは理解できなかった登場人物たちの行動に納得がいったりいかなかったり。

 

6.進撃の巨人 (5月29日)

 

 何度読み始めてもなぜかいつもアニが巨人化するところまでしか進まずに中断してしまう『進撃の巨人』をついに読み終えました。全巻まとめて貸してくれる人がいて、今回はものの一週間で終幕までたどり着いたのです。

 こと『進撃の巨人』においてはその見事な伏線回収が取り沙汰されている印象ですが(たしかにこの作品の伏線の張り方とその回収の仕方はいつも鮮やかで気持ちがいい)、第一に物語そのものがずっとおもしろいことがすごい。いつも思いもよらない方向に物語の舵が切られるのには毎回のように圧倒されていました。ただ、後半になると結構出てくる、未来が見えるとかの設定は個人的にはなんだか盛り下がりました。それを補って余りあるほどに夢中にさせられたのですが。好きなキャラクターはライナーとハンジです。

 あと今回読んでいて初めて気づいたのですが『タコピーの原罪』第1話のタイトル「2016年のきみへ」って、この漫画の第1話「二千年後の君へ」から取ったものだったのですね。こういうことに気づいて頭の中の点と点が繋がってくれる瞬間が漫画や映画に触れたときの一つの醍醐味でもあります。

 

 

 というわけで、5月に印象に残った作品の感想を書き連ねてみました。『ゴールデンカムイ』の感想部分でも似たようなことを書きましたが、最近では昔よりメジャーどころの漫画を読む機会が増えました。『進撃の巨人』もそうですし、1月ごろから『HUNTER×HUNTER』と『幽☆遊☆白書』を立て続けに読んでいます。

 すごく変な言い方にはなりますが、昔よりミーハーであることへの怯えがなくなったのだと思います。何に怯えていたのか、今となってはなんだかよく分かりませんけど、とにかくこの無用な枷がなくなったことで新しい世界が拓けたようなそんな開放感があります。ほんとに、なんでも知って触れておいた方がいいです。気づくのが遅すぎた感もありますが、気づけただけよかったのかもしれません。

 

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それでは。